PROCESS

方針と製造プロセス

資源を活かし、価値を最大化する

持続可能な社会を目指す中で、農業、特に畜産業は大きな変革期を迎えています。その鍵を握るのが「飼料」です。このページでは、未来の畜産を支える2つの重要な潮流を統合し、ご紹介します。
第一部では、地域内の資源を循環させる「サーキュラーエコノミー」の視点から、食品工場で生まれる副産物(ビール粕、おから、ふすま等)が、いかにして価値ある飼料へとアップサイクルされるかを探ります。これは食品ロス削減と地域経済活性化に貢献する取り組みです。
第二部では、そうして得られた資源の潜在能力を「科学」の力で最大限に引き出す飼料革命に迫ります。物理的な「圧ペン加工」と、生物的な「発酵技術」が、いかに牛の消化吸収率を高め、飼料の保存性や嗜好性を向上させるかを解き明かします。
第三部では、これらの技術を組み合わせた「完全混合飼料(TMR)」がいかに牛の健康を維持し、生産性を最大化するかの相乗効果を解説します。
第四部では、この統合戦略がもたらす具体的な成果と、経営の安定化に繋がる経済合理性を実証データと共に示します。
資源の有効活用から、その価値の最大化、そして最適な給与まで。この一連の流れこそが、日本の畜産業をより強く、持続可能なものへと導く道筋なのです。

1:地域資源のアップサイクル

食品副産物が栄養豊富な飼料に生まれ変わるまで

ビール粕ができるまで

ビール粕は、ビールの製造工程の初期段階、麦芽から甘い麦汁(ばくじゅう)を絞った後に残る固形分です。タンパク質や食物繊維が非常に豊富で、特に牛にとって優れた飼料となります。

2:科学の力で価値を最大化する

圧ペン穀物と発酵技術の融合で飼料の潜在能力を飛躍させる

2.1 物理の力:圧ペン加工

牛は生の穀物を食べても、その栄養を十分に吸収できません。主成分のデンプンが消化しにくい「βデンプン」だからです。「圧ペン加工」という、いわば穀物を牛のために調理するひと手間が、栄養吸収率を飛躍的に高める鍵となります。
βデンプンからαデンプンへ
βデンプン(生の状態)
分子が規則正しく並んだ硬い結晶構造。消化酵素が働きにくく、吸収されにくい。
αデンプン(糊化・アルファ化)
加熱により結晶構造が壊れ、分子がバラバラになった状態。消化酵素が働きやすく、非常に吸収されやすい。

圧ペン加工のフロー

圧ペン加工による劇的な効果

デンプン消化性の向上
圧ペン処理により、とうもろこし、大麦ともに消化率が100%近くまで向上します。
利用可能エネルギー(TDN)の飛躍
消化性が高まることで、牛が実際に体内で利用できるエネルギー量も大幅に増加します。

2.2 生物の力:発酵TMR

発酵TMRとは、栄養バランスの取れた完全混合飼料(TMR)を乳酸発酵させた、高品質な保存飼料です。これにより、飼料の長期保存、嗜好性の向上、そして労働力の大幅な削減が可能になります。特に、ビール粕やおからといった高水分のエコフィードを有効活用し、飼料費を削減する切り札として注目されています。
発酵TMR vs. フレッシュTMR

良質な発酵の科学

成功の鍵は、有用な「乳酸菌」を増やし、品質を劣化させる「有害微生物」を抑制することです。目標はpHを迅速に4.2以下に下げること。
理想的な有機酸の組成
発酵品質を左右する4大要因
  1. 酸素の排除: 高密度な圧密と迅速な密封で嫌気状態を作ることが最重要
  2. 糖分の確保: 乳酸菌のエネルギー源。不足する場合は糖蜜などを添加。
  3. 最適な水分 (35-60%): 高すぎると酪酸発酵、低すぎると圧密不足の原因に。
  4. 原料の品質管理: カビに汚染された穀物、腐敗箇所の徹底排除等、原料管理が最終的な発酵品質を左右する。

3:混合による相乗効果

TMR(完全混合飼料)で牛の健康と生産性を最適化する

VFA(揮発性脂肪酸)の重要性:牛のエネルギー源

牛の第一胃(ルーメン)では、微生物が飼料を分解し、主要なエネルギー源であるVFA(酢酸、プロピオン酸、酪酸)を生成します。飼料の種類によってVFAの生成バランスは変化し、これが生産性を大きく左右します。
飼料タイプによるVFA生成バランスの違い
酢酸:主に粗飼料(牧草など)から作られ、乳脂肪の主要な原料となります。
プロピオン酸:主に穀物飼料(とうもろこし等)から作られ、ブドウ糖に変換されて乳量や体重増加のエネルギー源となります。
このように、乳質を高めたい場合は酢酸の割合を、乳量や増体を狙う場合はプロピオン酸の割合を増やすなど、飼料設計によってVFAバランスをコントロールすることが、目的の生産性を達成するための鍵となります。

TMRの相乗効果

個々の飼料をTMRとして統合することで、栄養摂取が安定し、ルーメン(第一胃)の機能が最適化。個々の飼料の足し算以上の効果が生まれます。
ルーメンpHの安定化
穀物だけを一度に食べるとルーメン内が急激に酸性化(アシドーシス)し、微生物の活動が低下します。TMRは粗飼料と混合されているため、唾液の分泌を促し、pHの急激な低下を防ぎます。
エネルギー放出の同期化
分解の速い穀物(でんぷん質)と、遅い粗飼料(繊維質)を組み合わせることで、エネルギーが持続的に安定供給され、微生物の活動を最適化します。

発酵TMRの調製フロー

  • Step 1

    原料の配合と計量

    圧ペン穀物、発酵飼料米、ビール粕、おから、粗飼料などを栄養設計に基づき正確に計量。

  • Step 2

    混合と乳酸菌添加

    TMRミキサーで均一に混合。同時にスターターとなる乳酸菌を添加。

  • Step 3

    高密度圧密・完全密封

    飼料内の酸素を完全に追い出し、空気の侵入を遮断。

  • Step 4

    発酵・熟成

    数週間貯蔵。乳酸菌が働き、高品質な発酵TMRが完成。

4:実証された効果と経済合理性

最新の飼料戦略がもたらす、経営へのインパクト

実証された効果

肉牛(黒毛和種)における収益性の向上
発酵TMRを給与した黒毛和種は、市販配合飼料を与えた対照区の牛と比較して、収益性に直結する枝肉単価で優れた結果を示しました。
乳牛における乳量・乳質の向上
発酵TMRは乳牛においても大きな効果を発揮します。乳量が増加するだけでなく、乳脂肪率や無脂固形分率といった乳質も向上。さらに、乳房炎の指標となる体細胞数が減少し、牛の健康状態が改善されることも報告されています。

経営を守る経済的合理性

輸入依存からの脱却
国の助成制度を活用した国産飼料米や、ビール粕・おからといった国内の食品副産物を活用することは、価格変動の激しい輸入穀物に対する強力なリスク管理手段となり、経営の安定化に直結します。

結論:この統合戦略こそが未来への投資

コスト削減と経営安定
国内の未利用資源を活用し、高価な輸入飼料への依存を減らすことで、価格変動リスクに強い経営を実現します。
家畜の健康と高生産性
科学に基づいた栄養バランスで牛が元気に育ち、質の良い牛乳やお肉の生産、そして収益性の向上に直結します。
地域と地球に優しい
食品ロスを削減し、輸送エネルギーも抑えられるため、環境負荷の低い持続可能な畜産システムを構築します。
「循環」と「発酵」の融合は、日本の食と農の未来を明るく照らす、賢い選択なのです。